インサイト分析をビジネスの力に
セールス・イネーブルメント

顧客から選ばれる営業組織を育成する〜セールス・イネーブルメント

コロナ禍により激変した顧客接点に、この上ない危機感を持っておられる企業も多いかと思います。
マネージャーは部下の活動状況、その進捗、抱えている悩みや課題が可視化できない。一方、プレイヤー側においては、上司や先輩からの知識をうまく受け取ることができず、自身の営業活動に自信が持てないといった声をよく耳にします。

営業組織が成果を出し続けるためには、その方向性を示すのみならず、どう学び、どう行動すれば成果を出せるのかといった継続的な育成が重要です。

こういった営業組織が成果を出し続けるための人材育成の仕組みを作り上げることを「セールス・イネーブルメント」と言います。

人材育成を成果に直結させる手法

「育成」というワードを目にすると、「人事部や外部の事業者が実施している研修」と考える方が多いかと思います。
実際、日本国内では人事部が導入する新入社員研修の比率が最も多く、次いで管理者研修が多く、いずれも人事組織が主体となって実施している企業が多数を占めます。

米国と日本の違い

米国では2010年頃から前述のイネーブルメントが注目されはじめており、「CSO Insights:The 2019 Sales Enablement Report」によれば、2019年時点で調査対象企業のうち61.3%がイネーブルメント専門組織又はプログラムを設けていると回答しています。2013年の19.3%から毎年増加傾向にあることが分かります。

また、組織規模、年商が大きな組織ほど、セールス・イネーブルメントに取り組むことが不可欠となっていることが分かります。今や、イネーブルメントに関わる人材はグローバルでは1万人を超える規模にもなっています。

日本は定番教育&OJTが定番
日本は定番教育&OJTが定番

それに対して日本では、昔から続く新人教育や管理者研修など定番の教育をスポットで受講させることを育成と呼んでおり、継続的な育成については専ら OJT に頼るところが大きい傾向です。大半の国内企業がそのような傾向なので、データで示すまでもないかもしれません。

少ないとはいえ、近年、日本でもセールス・イネーブルメントに取り組む企業が増えつつありますから、将来は同様に導入企業が拡大していくと考えています。

イネーブルメントに取り組む企業の特徴

イネーブルメント専門組織を持つ企業は、営業予算達成率、成約率がともに高い傾向にあります。
イネーブルメント組織がない企業の営業予算達成率が50%以下なのに対して、専門組織を持つ企業は60%近くの達成率を実現しています。
詳しくは、先程のレポートで専門組織がある会社とない会社の比較が掲載されています。

つまり、イネーブルメントに取り組む企業は営業で成果を出しているという事実が分かります。
では、なぜイネーブルメントへの取り組みが成果に繋がるのかというと、それはイネーブルメントの評価指標=営業成果だからです。

国内で実施されている人材育成プログラムの多くは、具体的な KPI を持たないことが多く、研修の満足度や受講回数といった人材開発が目的となっている場合がほとんどです。

しかし、セールス・イネーブルメントは、営業成果に明確なKPIを持つ仕組みとなっています。
ビジネスのゴールをKPIとしているのです。ここが成果に直結するひとつの理由と言えます。

日本は平均的に育成投資が少ない
日本は平均的に育成投資が少ない

そのため、営業一人あたりにかける育成投資も異なります。
日本では営業一人あたりにかける年間の育成投資は、平均して3〜5万円程度と言われています。
それに対し、イネーブルメントでの育成投資額は営業一人あたり年間で1,500ドル(円換算で約19万円)です。

営業成果をKPIとしているところから、それに対しての投資として明確に定義していることが見受けられます。

人材育成をロジカルに考えてみる

そもそも、人材育成とは企業にとって何でしょう?
僕は人材育成とは、企業が効率よく成果を挙げるために不可欠なことだと考えています。

ですから、起点はどの程度の成果を挙げたいのかでなければならないと思います。
そして、現状と目指す成果のギャップを埋めるために人材育成があります

つまり、人材育成とは、組織の経営戦略と密接にリンクする必要があるのです。

イネーブルメントのスキーム

この図はイネーブルメント事業の スキーム をシンプルにしたものです。
まず、組織が目指す具体的なKPIの設定が起点となり、現状とのギャップを埋めるためのプロセスを計画します。
そして、そのプロセスを達成するために必要なスキルを組織に持たせるために、研修予算を策定します。

イネーブルメントのスキーム

たとえば、これまで商品を単品売りしていた事業をソリューション型に変革したいのならば、顧客からは課題解決型の営業スキルが求められます。そのためにターゲットを変更しなければならないのであれば、ターゲット市場を見定めて施策を立てるためのマーケティングスキルが必要になってきます。

イネーブルメントは戦略投資
イネーブルメントは戦略投資

戦略のために必要なスキルは、外部にお金を払ってでも手に入れなければなりません。
このように、なりたい姿(目指す成果)からブレイクダウンして育成へ繋げていくことで、具体的に戦略が推進できる組織を作り上げ、KPIの達成度合いで投資対効果を見ていきます。

成果に至らない場合、もしもその原因の一端がスキル不足にあるのならば、さらにそれを補うための研修を強化していきます。

このように人材育成においても、 PDCA を回していくことを念頭に置くことが大変重要です。

効果のある研修かどうかのチェックポイント

このように綿密に計画しても、人材育成が成果に直結しないことは多々あります。
そのような場合、一体どこに原因があるのでしょうか?

ひとことで言えば、目指す成果(KPI)と研修との間にいまいち整合性がないことが考えられます。
具体的には

  1. KPI達成を起点としてプランニングされていないため、投資対効果が図れない
  2. 現場寄りの講師がいないため、一般論すぎて業務に生かせていない
  3. 研修後のフォローができていないため、業務に生かせたか検証できていない

こういった場合、そもそもKPIの計画そのものがマッチングしていない可能性があります。
たとえば、目標とするKPIを達成することが「競合との差を埋め、入札の勝率を上げるためなのか」「まずは全体の営業スキルを底上げするためのものなのか」「控えている大型案件を確実に取りに行くためのものなのか」など、具体的な筋書きとリンクしていることが重要です。

そのために必要な研修を、外から買ってきてでも実現させるという考え方が必要です。

また、研修にありがちな一般論的な座学ばかりを学んでも、業務には生かせません。
講師に現場経験があれば、「こういったケースでは実はこういう行動が有効」など、経験が物を言うスキルを習得することができるはずです。

最低限でも、同様の業界経験がある講師、その業界の専門用語やお客様の事例、そしてある程度の成果を持つ講師を アサイン してください。

フォローアップの仕組みが必要
フォローアップの仕組みが必要

そして、研修後のフォローは非常に重要なのにも関わらず、ほとんどの研修で行われていないのが現実です。

講師がどこまでもフォロワーとして着いて回れるわけではありませんから、マネージャーが部下が受けたトレーニングの内容を正しく把握し、チェックやフォローができる仕組みを準備しておくことが必要です。

以前、別の記事で書きましたが、人が物を学ぶプロセスとして、インプットとアウトプットの両面をセットで実施することが効果的です。具体的には実務で意識的に反復活用することが必要です。

組織の規模によっては、マネージャー自身も数字を追いかけていて多忙であったり、部下をどうフォローしたらいいのか分かっていない場合が多々あります。

研修後のフォローは、体系的に評価やフィードバックが実施できるように仕組み化することが重要です。

イネーブルメント全体を横断して見る部門の必要性

具体的には、例えば「セールスイネーブルメント・グループ」のような少数精鋭の専門組織を設けることです。
ここには現場経験をある程度積んできたプロフェッショナル人材をアサインします。

よくあるパターンとして、インプットは人事部門が行い、研修後のフォローは現場のOJT任せ、成果を図るのは営業企画・推進部門が管轄している SFACRM を使うなどです。

この場合の問題点とは、各部門が個別最適化、いわゆる自己都合で動いてしまうことです。そのため、設定したKPI達成に向けたプロジェクトとして、一貫して進捗管理や修正を要望する部門が存在しません。

このような育成プロジェクト全体を俯瞰してマネジメントし、成果に繋げる仕組みが「イネーブルメント」です。

全体を俯瞰してマネジメントする仕組み「セールス・イネーブルメント」

イネーブルメント組織の役割

まとめると、イネーブルメント組織の役割は

  1. アウトプットの立案→プロセスの立案→インプットのプランニング
  2. インプットの実施→プロセスの実施→アウトプットの最適化

これらのスキームを効率よく、且つ確実に一気通貫してマネジメントしていくのが役割です。
研修内容やコーチングがちゃんと現場ですぐ活用できる実務的なものになっているかや、行動の指針や方向性がズレていないかなど、細部をマネジメントします。

そのためにも、単に研修コンテンツを提供するだけではなく、営業プロセスの再構築やツールの整備に至るまで協力して進めていきます。

そして、「管理者育成」や「新卒育成」、「コンプライアンス研修」などのプログラムはこれまで通り、人事部門にお任せします。

イネーブルメント組織が行うのは、あくまでもKPI達成に対するセールスの最適化です。

※ 横幅が狭いブラウザでは表は横スクロールします。

イネーブルメント組織人事組織
習得スキル営業成果に直結したスキル資格取得目的や単発の特定スキル
コンテンツ現場実務に則している基礎知識習得に則している
フォロー現場・マネージャーフォローも合わせて実施研修でのフォローのみ
進捗管理ITシステムによる進捗可視化進捗管理はマネージャーへ委任

イネーブルメントの実現には顧客視点が重要

KPIを達成するために最も重要なことは、顧客から受注することです。
当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが、多くの組織ではKPI達成ばかり目が向き、肝心な顧客視点を見落としてしまいがちです。

具体的には、自社の営業の行動プロセスが進んでいたとしても、顧客の意思決定プロセスが進んでいなければ意味がありません。営業が決められたプロセスをスケジュール通りにこなしていたとしても、それが必ずしも顧客の意思決定プロセスとはリンクしていないのです。

営業プロセスと顧客の意思決定プロセスの比較

特に、B2Bソリューションでは案件のプロセスが長く、意思決定までに多くのプロセスが必要となります。
次の表は顧客の意思決定プロセスと営業プロセス、2つの整合性を取ったプロセスの比較です。

※ 表は横スクロールします。

フェイズ1 ▶フェイズ2 ▶フェイズ3 ▶フェイズ4 ▶フェイズ5 ▶フェイズ6 ▶フェイズ7
顧客の意思決定プロセス表面化した課題の整理解決方法の比較検討他部門との調整部門決裁者との合意予算確保経営会議の最終決定契約・発注
営業活動から見たプロセス問合せ対応ヒアリング提案・見積もり待ち待ち待ち受注
整合性を取ったプロセス商談機会を作って攻める顧客課題の見極めソリューション提案決裁者との価値合意見積もり契約条件の合意受注

最上段の「顧客の意思決定プロセス」と2段目の「営業活動から見たプロセス」を比較していただくと、営業活動のプロセスが必ずしも顧客の意思決定プロセスとリンクしていないことが分かるかと思います。

実際には3段目の「整合性を取ったプロセス」が顧客の意思決定プロセスに近く、単に営業マンがどんな行動を取ったかだけを見ても、受注確率は上がらないというのが真実です。

この乖離が起きている状況を正しく理解し、顧客の意思決定を前へ進めていくためにも顧客視点が重要だということです。

顧客との密接な関係性構築が重要

よくある失敗として、「見積もり金額は問題ないと言われたのですが、予算に合わないと受注が延びました」や、「反応は良かったのですが、物件は予算の関係で来期に延びました」などの結果があり、マネジメント側は売上予測の見直しを迫られることになります。

結果として、四半期が過ぎても業績が延びずに、期末へ向かってどんどん予算が見直されていくといったパターンに追い込まれることになります。

その制度を上げるためにも、3段目のようなプロセスの徹底が重要となってきます。
「顧客が持つ課題の本質は何か?」
「顧客のあるべき姿は何で、それと現状のギャップを埋めるソリューションは何か?」
「顧客はいつまでにどのくらいの予算でそれを完了すればいいのか?」
「ソリューションが顧客の事業に及ぼす影響はどれくらいか?またソリューションがない場合の影響は?」

などのような顧客視点に則した提案内容を吟味し、先方の担当者が他部門や上長、経営側に訴求しやすい提案を話し合って決めていくことが重要です。

当然、営業プロセスの進捗報告も、「今は担当者の方が他部門と調整中です」や、「部門長と打ち合わせ中で来月の経営会議で予算とスケジュールが調整されます」、「ご担当者の部門は好意的なのですが、IT部門の思惑と一致していない部分があるようです」などといった具体的な顧客側の進捗を把握しつつ、報告ができるようにしていかなければなりません。

そのような顧客との密な関係性の構築こそ、競合相手との差を生み、自社に有利に働くのです。

顧客視点とのギャップを埋めるのがイネーブルメント

このように具体的な自社のポジショニングや営業プロセスのデータが可視化できることで、育成すべきスキルとはどのようなスキルなのかが見えてきます。

例えば、不足しているスキル習得のために以下のような研修プログラムを作ります

  1. 営業の予材が少なければ、案件創出のための研修プログラムを作る
  2. 競合に競り負けているのであれば、競合対策や市場分析の研修プログラムを作る
  3. クロージング率が低いのであれば、クロージングをスムーズにするための研修プログラムを作る
  4. 顧客の関係部門に関する提案がうまくいかないのであれば、その部門を攻略するための研修プログラムを作る

こういったウィークポイントを可視化するためにも、日頃から営業の活動ログや案件の進捗管理をきちんと蓄積しておくことが重要です。

このように、実際の営業プロセスを分析しながら、必要な対策を打っていくこともイネーブルメントの役割なのです。

今回は「セールス・イネーブルメント」とはどういったことなのかをテーマに記事を書きましたが、次回はマーケティング部門との連携をどのようにしていくかをテーマに記事を書きたいと思います。

この記事を書いた人

はじめまして、僕はアシマと申します。一部ではサイト管理者と激似との噂もありますが、ご存知の方はくれぐれも内密に。
ビジネスにお役立ていただける記事をどんどん書いていきますので、宜しくお願いします。

▼アシマの中の人の略歴

  • 学生時代には経営・財務の分野を学び、建設・不動産業界で経理部に在席。
  • 家電メーカーにて直営店舗の運営、マーチャンダイザーを経験。PCのBTOビジネス推進や、デジタル一眼カメラのセミナー講師、直営の免税店を経験。
    また、グループ企業のWebマスターとして、ポータルサイト、eコマースサイトの制作・運営、情報セキュリティマネジメント、ナレッジマネジメントを推進。
  • 神奈川県の家電量販店にて情報部門リーダー、都心店舗の店長を経験。
    その後、店舗開発部で新店舗出店時のレイアウト設計やスタッフの育成、出店準備、VMDの企画・制作などを歴任。
  • システムインテグレーターとして、手術室及び血管造影室の画像・映像配信システムの開発・設計、エンジニアリングを担当。さらに、遠隔手術支援システムの企画・開発を担当し、専門誌へ医師の偏在問題に関する論文を寄稿。
    また、医療向けシステムやフェリーの設備を安全にリモートメンテナンスするソリューションを開発・運用。
    その後、会社のリブランディングプロジェクトへの参画、デジタルマーケティング組織の立ち上げ、メディカル組織のマネジメントを経験。
  • 現在はクラウドサービスの開発会社でマーケティングディレクターとして、導入企業様のコンサルタントを担当しております。