インサイト分析をビジネスの力に

【図解】真の顧客とは誰か?〜効果的なSTP分析とは?

「いつも自社の商品を購入していただけるお客様はどういう人物なのか?」
「顧客が本当に必要だったものは何か?」など、何となく分かった気になっていませんか?

最近のビジネスでは「顧客満足度」や「顧客体験」というものが重要視されるようになっていますが、それを達成するために具体的に何をすればいいのかは悩ましい問題です。

思い込みと感謝の罠

人には思い込みというものが存在します。その物事に慣れていればいるほど、その傾向が強いと言われています。

「当社のお客様は、きっと当社のこういう所が気に入っているのだ」
「これは当社のお得意様がおっしゃっていたことだ」そういう話をよく耳にします。

しかし、よく考えてみてください。目の前の顧客が真実を語っているという保証はどこにあるのでしょうか?
これは決して、顧客が意図的に嘘を言っているという意味ではありません。

よく利用するお店で

たとえば、皆さんがよく利用されるお店に行った際に、もしも店主から「○○さんは、なぜうちのお店を利用してくれるの?」と聞いてきたとします。
その時皆さんはどう答えますか?
また、その答えに自信は持てますか?

つまり、答えている本人にとっても、実際になぜそこを利用するのかの真の理由は、あまり分かっていないというのが現実なのです。とはいえ、店主にとっては大切なお客様が言ってくれたことですから、これを信じないわけにはいかないと考えることでしょう。

実はこの思い込みと感謝の気持ちこそ、ビジネスを見誤る落とし穴なのです。

グルメサイトに5つ星の評価があったからといって、必ずしも誰もがそこの料理が5つ星と評価しているわけではありません。それでもその店に通う理由は他にあるのです。

統計データの罠

僕はマーケティングの話をしているのですが、いきなり専門用語を使って語るよりも、まずはあなたの思考を整理することをお勧めします。

人が行動することには必ず根拠があります。
たとえば、あなたが駅へ向かっている途中で喉が乾き、ミネラルウォーターを飲みたいと考えたとします。

どこで水を買いますか?
  1. ある人は駅へ向かう途中のコンビニで水を購入します。
  2. 別の人は、駅に着いてから駅構内のコンビニで水を購入します。
  3. そしてまた別の人は、駅の改札を入った後にホームの自動販売機で水を購入します。

果たして、この3者の行動の違いって何でしょう?

ここからはあくまでも僕の想像です。

1の方はきっと特定のコンビニのポイントを集めているのでしょう。だから途中のよく行くコンビニへ立ち寄ります。
この方を「ポイント優先」と定義します。

2の方は駅はもう少しだから駅に着いてから買おうと考え、重ねて自動販売機よりはコンビニの方が安いのでそちらで買おうと考えたのでしょう。
この方を「価格優先」と定義します。

3の方は②の方と最初の動機は一緒ですが、特にコンビニとホームの価格差は気にならないので、まずは本来の目的である駅のホームまで早く到着して、落ち着いてから水を買おうと考えたのではないでしょうか。
この方を「本来の目的優先」と定義します。

今僕が行ったことを、マーケティングでは「セグメンテーション」といいます。
このセグメンテーションには、大きく分けて3つの切り口があります。

  1. 地理的な切り口(デモグラフィック)
  2. 人口動態的な切り口(ジオグラフィック)
  3. 心理的な切り口(サイコグラフィック)
セグメンテーション

「地理的な切り口(デモグラフィック)」とは、国・地域・都市の規模、経済発展・進展度、人口、気候、文化・生活習慣、宗教、政策などの要素で分類するものです。

「人口動態的な切り口(ジオグラフィック)」とは、年齢、性別、職業、所得、学歴、家族構成などの要素で分類するものです。

この2つの特徴は、公なデータやマクロなデータを調べれば分かることです。つまり、表層的なデータを分析すれば分かることなのです。

それに対して、3つ目の「心理的な切り口(サイコグラフィック)」は価値観、趣向、ライフスタイル、心理的特徴といった、“感性”の分野に強く結びつく要素で分類するものです。

この3つ目の切り口は、ターゲットとしている相手のまさに「インサイト」を見抜かなければ分けることができないのです。つまり、ある一定のデータと想像力がないと見抜くことができないものなんです。

前述で僕がセグメンテーションした「〜優先」という切り口は、この心理的な切り口なわけです。

もちろん、地理的、人口動態的な切り口が有効なこともあるでしょう。しかしそれは、表層的な分析から見えてしまうだけに、大変おおまかな基準だと言わざるを得ません。

非常識なセグメンテーション

たとえば、東京23区に住む20代前半の建設会社の独身男性ビジネスマンで、年収が400万円以下の方が、必ずしも1の「コンビニで水を買う」であると考えるのは、何か違和感を感じます。

しかし、皆さんが”そんなの常識”と思い込んでいる世の中の多くのセグメンテーションとは、大抵がこの2つの切り口で考えられたものなのです。

あなたはどちらの切り口が、より真実に近いと考えますか?

セグメンテーションは人の持つ「ライフスタイル」「価値観」を探ること。
企業のプレファレンス(質的成長)には、心理的セグメンテーション(サイコグラフィック)を攻めることが効果的だと言えます。

思い込み排除からターゲットを見つける

これをぜひ、自社の顧客に置き換えてみてください。
皆さんは既に顧客となっている方々を想像して、「当社(当店)のお客様はこういう人」と決めつけていませんか?

サイコグラフィックセグメンテーションを行うためには、ターゲットを表面的な要素だけではなく、深いレベルで理解することが必要です。
ここでは実際の事例に登場するたった一人の顧客「ペルソナ」を使って、ターゲットが言葉に表せない「インサイト」を考えていきます。

ここでひとつの例を挙げます。

歯科医院の事例

これは、ある歯科医院の例です。
その歯科医院の院長は、とても高度な技術を持っていて保険で治療する患者さんよりも、自費でインプラントやホワイトニングなどの高度な技術に治療費を支払ってくれる患者さんを主なターゲットとしています。
開院当初はイメージ戦略が功を奏し、自費で高度な治療を受けてくれる患者さんが多く集まり、経営が良好でした。

しかし、開院から3年目を過ぎた頃から、自費の患者さんが減ってしまい、歯科医院の収支が悪くなってしまいました。

そこでこの院長、自院の顧客は自分に対して高度な技術を望んでいるのだから、もっとインプラントなどの技術をアピールしていこうと考えました。しかし、一向に自費の患者さんは増えません。

ある日、開院当初にホワイトニングとインプラントの施術を受けてくれた患者さんが再来院したため、その患者さんになぜ当院を選んだのかを聞いてみることにしました。

すると、その患者さんの答えはとても意外なことでした。

若さを保ちたかった

実はあの頃、今の奥さんとお付き合いを始めたばかりで、なんと奥さんの元恋人が自分よりも10歳も若かったんです。
それで悩んでこの通りを歩いているときに、この医院の看板に書いてあった「アンチエイジングにはホワイトニング」という文字が目に入ったんです。

さらに、「入れ歯は4〜5年、ブリッジは7〜8年、インプラントは10〜15年」というポスターが目に入ったんです。そこから少しお金をかけてでも、今の奥さんと幸せな結婚をするために頑張ってみようと考えたんです。

そうです、これがまさにこの患者さんのインサイトだったのです。それからこの歯科医院は、治療を”美容”や”アンチエイジング”という言葉に置き換えることで、経営を持ち直したのです。

ターゲットを整理してみる

それまでの院長は、当院があるこの地域に住んでいる方は平均年収が800万円以上だから、そういう方は技術力の高いところへは金に糸目をつけないと考えていました。そのうえ、開院当初はうまくいっていたわけですから、それを真実と捉えていたわけです。

しかし、実はこの患者さんですが、なんと年収は院長がターゲットと考えていた方の半分以下。住まいはこの地域ではなく、この地域から5駅も離れたところに住まわれていたんです。

実は、その他の患者さんを調べてみると、実に全体の約30%はこの地域の患者さんではなかったんです。では、これまでの考えを簡単に整理してみましょう。

当初の考え方

ターゲット

この地域に住む高年収の方

特に主要なターゲット

診療代よりは技術を優先する方

新しい考え方

ターゲット

歯の美容をきっかけに若返りたい方

特に主要なターゲット

美容、アンチエイジングをしたい方

考え方が180度変わりましたね。
当然、新しい考え方に沿って、歯科医院のデザインも院内のポスターも大幅に変化しました。そしてこの歯科医院は、それから審美歯科としてリニューアルしたのです。

このように、顧客の行動には必ず根拠があります。その根拠をどう想像するかによって、ビジネスは大きく変化するのです。特定のターゲットに寄り添うことは、必ずしも正解とは限りません。
しかし、現状が低迷しているのなら、思い切って変えてみるのも手かもしれません。

つまり、ターゲティングとはこの個客の最大の喜び(ベネフィット)を導き出し、最小のマーケティング投資で最大の利益が得られる方法を探すことを言います。

Who・What・Howで考える

Who「最も優先すべきターゲット(Prime Prospect)」、What「最も重要な価値提供(Benefit)」、How「最も適切な提供手段(Reason To Believe)」という考え方です。

この考え方はとてもシンプルです。だからこそ、解釈を変えながら、とても深く考えることができます。

この院長の当初の考え方は

  • 誰が?Who:この地域に住む高年収の方
  • どんな便益を?What:高度な施術・技術を受けられることでした。
  • だからどうする?How:高い技術力をアピールする

しかし、結果としてこの考え方が誤っていることに気が付きます。そして院長がある患者さんにヒアリングしたことを元に変更した考え方は次のとおりです。

  • 誰が?Who:歯の美容をきっかけに若返りたい方
  • どんな便益を?What:審美歯科治療によって、美しさや若さが手に入る
  • だからどうする?How:審美歯科分野のエキスパートとして、歯の治療をする
WHO・WHAT・HOWで考える

この考え方を整理するうえで、よく間違える項目が「What」です。
一見、WhatとHowは同じような項目に見えがちですが、Howはあくまでも手段で、Whatは顧客に提供する真の価値(Benefit)であると考えることが非常に重要です。

ユーザーベネフィットとなる「What」は、戦略を考えるうえでは最も重要な要素といえます。これがフィックスすることで、今やるべきこと(戦略)はこれを突き詰めるための「How」であると判明するのです。

さらにいえば、「審美歯科分野のエキスパート」という部分が定量的に見える価値であること。たとえば、日本歯科審美学会歯科衛生認定士(審美歯科における歯科衛生士のエキスパートであるということを示す資格)を取得した歯科衛生士が「○○名在籍」などとアピールできるとなお、分かりやすい価値となるでしょう。

また、Whoの部分もさらにその目的(Why)を深堀りすることで、「年下の彼女をゲットしたい方」や「好印象な微笑みを手に入れたい方」といった、より具体的なPrime Prospectを導き出すことが出来るようになります。

「WHO」を見つけるコツはターゲットの「不」を見つけること。
「WHAT」を引き出す鍵はターゲットのインサイトを導き出すこと。
「HOW」はターゲットのBenefit(便益)を叶えるための戦略のこと。

事業を誤った方向性でやり続けないためにも、まずは自社がターゲットとすべき顧客を理解するために、上記のような戦略ドメインを策定することが重要です。

そしてこれらの分析「STP」の要点をまとめると次のようになります。

  • (S)セグメンテーション:市場機会を発見するために、何らかの切り口によって市場を細分化すること。
  • (T)ターゲティング:自社・顧客両者の利益最大化のために、どの市場に資源を集中するか決めること。
  • (P)ポジショニング:顧客から見て「自社ならではの独自の役割」を築き上げていくこと。

ポジショニングの目的は競合との差別化ではなく、顧客から見て「他に替えられない」独自の役割を持った存在になることです。

結果の出るマーケティングを学ぶ

戦略立案のワークフレーム

市場を知るために重要な戦況分析

このようにターゲットの「不」を見つけ、戦略を立案することを「戦略ドメイン」の策定と言います。
通常、この戦略ドメインの策定以前もしくは以後に、市場分析を実施する必要があります。

市場分析を実施する際は、まず、戦況分析「ATL(Assessing The Landscape)」をして、その中で自社が勝てる場所「High Ground」を探っていきます。このATLの分析は 5C分析 を行います。通常5C分析は、「消費者(Consumer)又は「顧客(Client)」「中間顧客(Customer)」「競合他社(Competitor)」「外部環境(Community)」「自社(Company)」の分析を実施します。中間顧客が存在しないビジネスの場合には、代わりに「バックグラウンド(Context)」を考えると良いと思います。バックグラウンドとは、そのビジネスに裏で関わっている要因となるもの、つまり、直接取り引きを行う相手ではないかもしれないが、実際に消費者が自社のプロダクトを入手するきっかけを作るものを指します。
また、外部環境の分析には「PEST分析」が便利です。

その関係性を分かりやすく図にすると、次のような感じです。

ATLのイメージ

ATLでは、5Cで判明する「事実」と、その事実を裏付ける「構造仮説」を導き出していきます。構造仮説とは、なぜそのような事実に至ったかということです。

勝ち筋を見つける

この分析が終わった後は、「構造仮説」と「自社の強み」、そして構造仮説から導き出せる顧客が望む価値「意思決定要素」を考えていきます。

そして、その3つの要素が重なる部分が勝てる場所「ハイグラウンド仮説」となります。

このような分析をできればチームで実施し、成功要因、いわゆる勝ち筋が見えることで、皆が同じ目標に向かって船を漕ぎ始めることができるはずです。

ハイグラウンド仮説のイメージ

大切なことは正解を出すことではありません。なぜならば、戦略が終わるまで正解など無いからです。
戦略が正解かどうかは、真剣にやり続けた後に、結果がすべて教えてくれます。

こういった分析を事前に実施することで、ビジネスを取り巻く環境がより詳細に把握できるようになるはずです。

市場分析と戦略ドメインを策定した後は、製品・サービスの戦略です。この記事では商品戦略で重要な4Pや7Pの考え方について書いています。

「商品ありき」の戦略は初期市場には有効であっても、その先のメインストリームへの溝を超えることができません。顧客起点の考え方について書いた記事です。

まとめ

このように、しっかりと真のターゲットを見据え、そのターゲットのインサイトを理解することで、自社の真の価値提供を見つける手法として、マーケティングがあります。

よく、マーケティングはまず 3C を調べて、STP はこうで…みたいな勉強をするわけなんですが(これが誤っているわけではありません)、「それって実際にはどう使うの?」、「項目を埋めてみたけど、だから何だって?」という疑問を持つ方も多く、その結末に結果の出ないマーケティングをズブズブやり続けてしまうといった事例が多くあります。

僕はこれはあくまでもインプットとアウトプットの順番の問題だと思っていて、まずは目の前の課題解決をシンプルに思考整理し、アウトプットしてみて、「これがマーケティングで言っているこれなんだ」と気付いてインプットしていく方が深い学びに繋がると思っています。

今回の記事は、インサイトを用いたセグメンテーション〜ターゲティング〜ポジショニング(STP)の流れについて書かせていただきました。今後もマーケティングのノウハウをこのように実践ベースで書いていきたいと思います。

また、潜在的な顧客を見つけるための手法について書いている記事もあります。合わせて御覧ください。

顧客理解を深めるためのおすすめツール

前述のようなマーケティングの強みは、まさに顧客のインサイトを知ることからはじまります。

インサイトに気がつくためには、日頃から顧客と接しているその瞬間を綿密に記録し、そのアイデアの源を関係者でシェアすることが必要です。それは企業の顧客戦略にとって大きな力となることでしょう。


この記事を書いた人

はじめまして、僕はアシマと申します。一部ではサイト管理者と激似との噂もありますが、ご存知の方はくれぐれも内密に。
ビジネスにお役立ていただける記事をどんどん書いていきますので、宜しくお願いします。

▼アシマの中の人の略歴

  • 学生時代には経営・財務の分野を学び、建設・不動産業界で経理部に在席。
  • 家電メーカーにて直営店舗の運営、マーチャンダイザーを経験。PCのBTOビジネス推進や、デジタル一眼カメラのセミナー講師、直営の免税店を経験。
    また、グループ企業のWebマスターとして、ポータルサイト、eコマースサイトの制作・運営、情報セキュリティマネジメント、ナレッジマネジメントを推進。
  • 神奈川県の家電量販店にて情報部門リーダー、都心店舗の店長を経験。
    その後、店舗開発部で新店舗出店時のレイアウト設計やスタッフの育成、出店準備、VMDの企画・制作などを歴任。
  • システムインテグレーターとして、手術室及び血管造影室の画像・映像配信システムの開発・設計、エンジニアリングを担当。さらに、遠隔手術支援システムの企画・開発を担当し、専門誌へ医師の偏在問題に関する論文を寄稿。
    また、医療向けシステムやフェリーの設備を安全にリモートメンテナンスするソリューションを開発・運用。
    その後、会社のリブランディングプロジェクトへの参画、デジタルマーケティング組織の立ち上げ、メディカル組織のマネジメントを経験。
  • 現在はクラウドサービスの開発会社でマーケティングディレクターとして、導入企業様のコンサルタントを担当しております。